投手の役割は大きく先発と救援に分かれ、救援の中でもさらに「ロング」「ミドル」「セットアッパー(8 回)」「クローザー(9 回)」と細分化される。とくに 8 回と 9 回を担う二人は、シーズンを通じてチームの勝ち星を直接守る存在として扱われ、年俸も特別なラインに乗ることが多い。
しかし、「セーブ」と「ホールド」という別カテゴリで評価され続けてきた両者の実際の負荷とチームへの貢献は、本当に分けて語るほど違うものなのか。本記事では、過去 5 シーズンの NPB データから、この問いをデータで眺め直してみる。
役割の定義をおさらいする
まずは前提の整理。セーブは「9 回を含む登板で、リードが 3 点以内のままチームを勝たせた」場合に記録され、ホールドは「リードが付いた状態で登板し、リードを保ったまま降板した」場合に記録される。同じ登板で両方記録されることはなく、役割と球場の状況で振り分けられる。
つまり、両者の差は「投げているイニングの番号」と「降板時のゲームが終わるか否か」であって、登板した時点の負荷(投球数や走者の有無)には本質的な区別はない。
過去 5 シーズン、両ロールの「数」を見る
BaseballHub のデータから、各シーズンに「20 セーブ以上を記録したクローザー級」と「25 ホールド以上を記録したセットアッパー級」の人数を抜き出した。各シーズンの最高値(最多セーブ/最多ホールド)も並べた。
| シーズン | 20S 以上 (CL級) | 25H 以上 (SU級) | 最多セーブ | 最多ホールド |
|---|---|---|---|---|
| 2025 | 7 | 15 | マルティネス 46 | 大勢 46 |
| 2024 | 13 | 10 | マルティネス 43 | 松山晋也 41 |
| 2023 | 12 | 11 | 松井裕樹 39 | ペルドモ 41 |
| 2022 | 12 | 11 | マルティネス 39 | 湯浅京己 43 |
12 球団あるリーグで「セーブ 20 以上のクローザー」が毎年 7〜13 人、「ホールド 25 以上のセットアッパー」が 10〜15 人。一見すると分布も似ている。最多記録のレンジも、年によってばらつきはあるが、セーブ 39〜46、ホールド 41〜46 と、ほぼ重なるレンジに収まっている。
投球イニング・登板数で見直すと、どちらが「働き者」か
セーブとホールドはそれぞれ「結果」を数える指標で、登板の量や球数を測っているわけではない。ところが、実際の負荷を見ると、セットアッパーのほうが登板数も投球イニングも多いのが普通だ。クローザーが「9 回限定・1 イニング厳守」で年間 50〜55 登板に収まるのに対して、セットアッパーは「7 回〜8 回をまたぐ」「同点のままでも投入される」など起用範囲が広い。
感覚的に言えば、クローザーは「ピンポイント高出力」、セットアッパーは「持久戦の中軸」。どちらも勝ち星を守るが、削られ方が違う。
WAR の文脈ではどちらが高いか
本サイトでは投手 WAR は推定値の表示を控えている(先発と異なり、救援投手の WAR をOPS ベースで導けないため)。一般論として、MLB の研究では「同じ防御率なら、セットアッパーのほうがイニング数が多いぶん WAR の上振れが起きやすい」ことが知られている。つまり、セーブ 40 のクローザーと、ホールド 40 のセットアッパーが並んでいたら、投球イニングの長いセットアッパーのほうが、実は WAR では上回る可能性が高い、ということだ。
もちろん、これは「9 回のプレッシャー」を数値化できないことを差し引いた話。1 点差・走者三塁で 9 回マウンドに上がる球数 15 球と、3 点差・無走者で 8 回頭から投げる球数 15 球は、選手心理としても見る側の興奮としても、まったく違う体験だ。データだけで割り切れない部分は残る。
では、評価の仕方をどう変えるべきか
セーブの数を持って「絶対的なクローザー」と言うのは、もう少し慎重になっていい。クローザーの仕事は確かに最後の 3 アウトを取ることだが、それは「振り分けた結果としての 9 回」であり、「8 回のセットアッパーが先に投げたから 9 回までもつれた」「9 回でも降板したらホールド扱い」といった、ロール定義の影響が大きい。
ファンとして読み解くなら、「セーブ/ホールド」のカテゴリを横並びに比較するのが安全だ。
- 登板数(同じロールでも 50 vs 65 で負荷は別物)
- 投球回(1 イニング厳守か、複数回またぐか)
- WHIP と被 OPS(純粋な抑え込み力)
- シーズン後半の数字(夏場に削れているか)
まとめ
セットアッパーとクローザーは、ロール名の派手さほど構造的に違うわけではない。セーブの方が劇的に注目される一方で、年間の投球イニング・登板数・状況対応の幅ではセットアッパーのほうが「働き者」であることが多い。
BaseballHub では、両者を別レポートにせず同じ「救援投手レポート」内で並列に扱っている。「セーブが多い人」だけでなく、「ホールドの中身(イニング・WHIP)が良い人」も同じ画面で見られるようになっているので、来季の年俸予想やトレード議論の補助線として使ってみてほしい。