プロ野球を語るときに最も使われる打撃指標は、いまも昔も本塁打である。「ホームラン王」というタイトルは選手の格を決定づけ、年俸交渉の主役にもなる。しかし、もしチームの勝利への貢献度(WAR)で並べ直したら——意外と本塁打王とは別の選手が首位に立っていることが多い、と聞いたらどう思うだろうか。
本記事では、過去 5 シーズンの NPB における「本塁打王」と「WAR キング」を並べ、両者が一致しなかった年に何が起きていたかを、データから読み解いてみる。
過去 5 シーズンの本塁打王 vs WAR キング
対象は 30 試合以上出場した野手。WAR は BaseballHub の推定値(誤差 ±1〜2 程度を想定)。本塁打王と WAR キングが「同一人物だった年」と「別人だった年」を整理した。
| シーズン | 本塁打王 | HR | 本人のWAR | WARキング | WAR | 本人のHR |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2025 | 佐藤輝明 | 40 | 4.2 | 佐藤輝明 | 4.2 | 40 |
| 2024 | 山川穂高 | 34 | 2.8 | 近藤健介 | 4.2 | 19 |
| 2023 | 岡本和真 | 41 | 4.5 | 近藤健介 | 4.6 | 26 |
| 2022 | 村上宗隆 | 56 | 6.9 | 村上宗隆 | 6.9 | 56 |
| 2021 | 岡本和真 | 39 | 3.6 | 鈴木誠也 | 5.5 | 38 |
| 2020 | 浅村栄斗 | 32 | 3.9 | 柳田悠岐 | 4.9 | 29 |
6 シーズン中、本塁打王と WAR キングが完全一致したのはわずか 2 シーズン(2022 年の村上宗隆、2025 年の佐藤輝明)。残りの 4 シーズンでは、本塁打王より少ない本塁打数でWAR のトップに立った選手がいた。
近藤健介と鈴木誠也、本塁打以外で稼ぐ選手
ここで興味深いのが、2023 年と 2024 年で連続して WAR キングに立った近藤健介の数字だ。2024 年の本塁打はわずか 19 本——リーグの本塁打王より 15 本少ない。にもかかわらず WAR は 4.2 で、本塁打王の山川穂高(WAR 2.8)を大きく上回った。
理由は、近藤の出塁率の高さにある。2024 年シーズンの近藤は OBP .439、BB% 17.2%。「打席に立ったら 44% の確率で塁に出る」という、リーグ平均(OBP .320 前後)を大きく上回るペースだ。一方の山川は OBP .350 前後。同じシーズンに 600 打席ずつ立ったとして、近藤のほうが約 60 打席ぶん多く塁に立っている計算になる。
そして、塁に立つこと自体が得点機会の創出につながる。塁上の走者は、後続の打者のヒット 1 本で生還する可能性がある。本塁打 1 本が確実に 1 点を生むのは美しいが、「年間 100 打席ぶん多く塁に立つ」ことも、長いシーズンを通せば本塁打 10 本に匹敵する得点貢献になる。WAR は、この「目立たないが効く」貢献を、本塁打と同じ重みで評価する設計になっているのだ。
2021 年の鈴木誠也は、なぜ岡本和真を上回ったか
もう一つ象徴的なのが 2021 年のセ・リーグだ。本塁打王は岡本和真(39 本)、WAR キングは鈴木誠也(5.5)。注目すべきは、鈴木の本塁打数も 38 本で岡本とほぼ並んでいた点である。
では、なぜ同じような本塁打数で WAR に 2.0 もの差がついたのか。鈴木の wRC+ は 182、岡本は 145 前後。つまり「同じくらいホームランを打っていたが、ホームラン以外の打席で鈴木のほうがずっと得点を生み出していた」のだ。ヒットを散発で重ね、四球をきっちり選び、三振の代わりに進塁打を打つ——本塁打が並んでいても、その間の打席の使い方で年間貢献度は数勝分変わる。
「派手な数字」と「総合貢献度」を分けて見るコツ
本塁打、打点、打率といった伝統的指標は、ファンの記憶に残るし、語り口も豊かだ。一方で WAR や wRC+ は「そのシーズンの打撃を 1 つの数字で要約する」ことに重きが置かれており、解釈の余地は少ない。両者は競合するものではなく、「目的が違う指標」と捉えるのが正確だ。
- 「いまホームランを打った!」を楽しむには本塁打数
- 「シーズン MVP の議論をする」には wRC+ と WAR
- 「次の契約はどれくらいの規模になるか」を予想するなら WAR と出場試合
- 「2 軍から昇格した選手が上位互換になるか」を判断するなら wRC+ と BB%・K%
BaseballHub の各選手ページでは、本塁打や打点といった生カウントと、WAR・wRC+ といった推定指標を同じ画面に並べている。「同じ年の本塁打王と WAR キングがズレている」ことが起きた年——例えば 2021 年や 2024 年——は、各選手ページで両者を交互に開きながら「なぜズレたのか」をスタッツで確認すると、議論の解像度がぐっと上がるはずだ。
2026 年シーズンはどうなるか
2026 年は 5 月末時点で、本塁打首位もWAR首位も阪神の佐藤輝明(HR 12、WAR 2.2)が独占している。2025 年に続いて「本塁打王と WAR キングが同一人物」のシーズンになる可能性が高い。ただし佐藤は今年、wRC+ 210 という極端な打撃ペースで走っている。もしどこかでペースが落ちれば、WAR レースには福岡ソフトバンクの近藤健介(OBP .406、wRC+ 154)が戻ってくる可能性が高い。
本塁打王のニュースだけで満足せず、シーズン途中の WAR ランキングも併せて追ってみてほしい。「2 つのタイトルレースが並行して進む」と意識して見ると、観戦体験は確実に厚くなる。